以下の文章は、1994年3月、公開当時に書いたものです。
「ぴくちゃあ Vol.9」より
はずむ職人=大森一樹
丸の内松竹で『シュート!』を見た帰り、心はずんで走り出したくなった(実際、自転車に乗っていたので、走っていたわけだが)。こんな気持ちは何年ぶりだろうと想い出すと、何と『すかんぴんウォーク』('84・大森一樹)までさかのぼってしまった。それほど、ここ何年も心はずんで走り出したくなる作品との出会いがなかったということか。
大林宣彦の作品群は、いつも心ウキウキさせてくれるが、走り出すというよりもゆっくり歩いて余韻を味わいながら帰るという感じ。大森一樹の作品、たとえば吉川晃司3部作などは見終った後は思わず走り出したくなってしまう。そんな気分にさせてくれる爽快感、リズム感がある。何よりも楽しい、これが映画のすべてだ。
『シュート!』は、アイドルSMAPをうまく使いこなして、一級の娯楽映画、スピード感あふれるスポーツ映画に仕上げていた。原作がマンガだからといって、やたらコミカルになっていない。橋本以蔵の決定稿には、コミカルなマンガチックなシーンが多かったのを、うまく刈り込んで、現実感ある高校生たちを登場させている。たとえば、シナリオではトシの母親が何度か登場するのに、映画では最初に電話で声だけの出演である。これは、野際陽子のスケジュールが合わなかったのかもしれないが、それよりも母親が登場して笑いをとるよりも家庭を必要最小限に抑えておいて、その分サッカーを描きかったのだと思う。それがうまく成功している。サッカーシーンもマンガチックにはならず、見ていて少しも不自然ではなくスピード感があった。特に地を這って走る高間賢治のカメラワークが素晴らしかった。
ジャニーズ事務所からは、今までいろんなグループが出ているが、このSMAPの面々はなかなかの粒ぞろい。早くからバラバラにTV・舞台・映画に登場しているようだが、私なんか映画の後半、稲垣吾郎が登場するまでは、トシと久保、どっちが稲垣でどっちが木村拓哉なんだろうと思ったりしていた。何しろそれまでは、稲垣と木村と森且行しか知らなかったのだから。6人の中では、木村拓哉が一番しっかりしている。神谷の草<弓剪>剛(この、なぎ、という字は印刷屋泣かせの字だなあ、アイドルにこんな芸名をつけるなんて、本名なのかな)と、トシの中居正広に「サッカー好きか?」と語りかけるさわやかな笑顔。そのややホモチックな魅力で二人をとりこにしてしまう演技などは、木村にしかできないのだろう。
主役の中居正広が冒頭での新幹線ホームでたたずむ表情がいい。きりりと男らしい顔だちで、高校入学してからの久保との出会い、別れ、それらを経ての人間的な成長がにじみ出ている。実にいい。この中居の表情がこの映画の一番の収穫だ。
この中居をそれとなく連れ戻しに来る先生役の古尾谷雅人がまたいい。飄々としていてサッカー部顧問なのに、「たかがサッカーじゃないか」といいながらも、部員たちをやさしく見守っている。『宇宙の法則』(1990:井筒和幸)的な淡々とした演技で久しぶりにいい味を出していた。『山田ババアに花束を』(1990:大井利夫)はひとり浮いていて可哀想なくらいだったからなあ。
小高恵美も初めての他社出演(今時、こんな表現もおかしいが)で、女を演じて進境著しい。何しろ、それまでが『ゴジラ』シリーズの添え物的存在だったのだから。小高恵美のキャスティングは、大森一樹の希望なのだろうか。そうだとしたら、大森作品の常連入りしたことになりうれしい限り。今後どんな役で出てくるか、楽しみだ。
これは明らかに大森のキャスティングだと断言していいのは、喫茶店のマスター役、東銀之介。何しろ橋本以蔵のシナリオには、喫茶店のシーンはあってもマスターのセリフはないのだから。東銀之介は大森作品では『花の降る午後』(1989)で初登場して(だと思う)、そのユニークな風貌で印象に残っている(ハーフではなくて、純日本人のようだ。前職が航空パイロット)。その後、『ボクが病気になった理由<わけ>』(1990)では、オムニバスをつなぐ進行役となり、医師や神父を演じていた。
もうひとり、常連中の常連、上田耕一がいつもながら楽しい。今回は予備校の教師役で2シーンの出番がある。上田らしい味付けでユニークな教師を演じている。上田耕一は大森作品では『すかんぴんウォーク』(1984)が初登場で、1985年の『ユー・ガッタ・チャンス』を除いて、『テイク・イット・イージー』(1986)、『恋する女たち』(1988)、『トットチャンネル』(1987)、『「さよなら」の女たち』(1987)、『花の降る午後』(1989)、『ゴジラVSビオランテ』(1989)、『ボクが病気になった理由<わけ>第二話ランゲルハンス・コネクション』(1990)、『満月』(1991)、『ゴジラVSキングギドラ』(1991)、『継承盃』(1992)、そして『シュート』(1994)と実に大森監督劇場用16本中12本に出ている。大林宣彦作品の峰岸徹のような存在になってきつつある。
コンスタントに映画を撮り続けている監督と、その作品に常連として出演し続ける俳優の関係というのは、大林宣彦と常連さん(峰岸徹、尾美としのり、ベンガル、岸部一徳、他)と、大森一樹と上田耕一(室井滋はちょっとご無沙汰)ぐらいしかいなくなってしまった。もちろん、山田洋次や栗山富夫のシリーズ物を除くのは言うまでもない。
この監督作品には、あの役者が必ず出ている、今度はどんな役で出ているんだろう、というのが映画を見る醍醐味であるはずなんだが。
この監督作品には、あの役者が必ず出ている、今度はどんな役で出ているんだろう、というのが映画を見る醍醐味であるはずなんだが。
記:1994年3月
※見やすいように、改行ごとに一行あけました。
スタッフ 監 督 大森 一樹 製 作 櫻井 洋三 ジャニー喜多川 プロデューサー 田沢 連二 椿 宜和 原 作 大島 司「シュート!」(週刊少年マガジン連載) 脚 本 橋本 以蔵 美 術 金田 克美 撮影監督 高間 賢治 音 楽 土方 隆行 音楽プロデューサー 佐々木麻美子 録 音 橋本 泰夫 照 明 上保 正道 編 集 池田美千子 助監督 藤 嘉行 スクリプター 三浦 文子 スチール 川澄 雅一 キャスト 中居 正広 田仲俊彦 木村 拓哉 久保嘉晴 稲垣 吾郎 馬場圭吾 森 且行 白石健二 草なぎ 剛 神谷篤司 香取 慎吾 平松和広 水野 美紀 遠藤一美 小高 恵美 北原美奈子 古尾谷雅人 磯貝先生 ラモス瑠偉 (ヴェルディ川崎) 武田 修宏 (ヴェルディ川崎) 藤吉 信次 (ヴェルディ川崎) 前田 耕陽 (元男闘呼組/友情出演) 堂本 光一 (KinKi Kids/友情出演) 堂本 剛 (KinKi Kids/友情出演) 野際 陽子 田仲の母親(声の出演) 井ノ原快彦(後にV6) 佐々木豊 長野 博(後にV6) 斉木誠 東 銀之介 喫茶店のマスター 上田 耕一 予備校の教師「にほんブログ村」に参加しています。応援クリックお願いします。
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